博士先生の研究日誌

博士号を取得した小学校教師の研究について

論点整理(素案)を読み解く! 第一章「次期学習指導要領に向けた基本的な考え方」

令和7年9月5日に教育課程部会の教育課程企画特別部会が開催されて、次期学習指導要領に向けた話し合いが行われました。その論点整理(素案)が開示されていますが、ページ数が多いため、少しずつ内容を紹介していきます。まずは第一章です。

 

第一章「次期学習指導要領に向けた基本的な考え方」

次期学習指導要領に向けた今後の検討の基盤となる基本的な考え方として提起された柱は3つあります。

  1. 主体的で対話的で深い学びの実装(Excellence)
  2. 多様性の包摂(Equity)
  3. 実現可能性(Feasibility)

変化の激しいこれからの社会で、子どもたち一人ひとりが主体的に学び続け、自らの人生を切り拓く力を育むことを目指すために、「多様な子供たちの『深い学び』を確かなものに」することが中心です。

 

 

 

1. 主体的で対話的で深い学びの実装 ― 知識を意味ある力に

「深い学び」とは、知識を丸暗記することではなく、概念を理解して活用できる力を育てることを指します。知識を点ではなくつながりで理解するというイメージです。

現行の学習指導要領でも重視されてきた「主体的・対話的で深い学び」を、さらに本格的に授業に実装していくことが第一の柱とされています。

単に知識を覚えるだけでなく、子どもたちが知識を相互に関連づけて深く理解し、他の場面でも活用できる「生きて働く確かな知識」を育むことが一層重視されます。

 

・授業では「なぜ?」「どうして?」を問いかけ、子どもが考え・表現しながら学ぶ流れを大切にする。

・学習指導要領の内容も、網羅より「構造化」「表形式化」「デジタル化」で整理される。

・ICTは「とりあえず使う」ではなく、深い学びを引き出す目的で活用する。

・小学校総合に「情報の領域(仮称)」を、中学校には「情報・技術科(仮称)」が新設。

 

 

例えば、社会科においては以下のような授業が想定されると考えます。

「ある歴史上の出来事について、もし自分が当時の〇〇だったらどう判断したかという問いを立て、グループで根拠を持って議論する。」

「資料を多角的に読み解き、現代社会とのつながりを考察するレポートを作成するなど、知識を活用して思考する。」

 

このように、より活用を意識した学習活動を充実させることが求められるでしょう。

 

2. 多様性の包摂 ― 子どもの“好き・得意”を伸ばす

今の学校現場には、不登校の子、特定分野に優れた子、多様な言語背景を持つ子など、様々な子どもがいます。

次期指導要領では、その多様性を前提に、一人ひとりの「好き」や「得意」を動機づけにして学び全体を広げることを重視します。

具体的には、

・「調整授業時数制度」や「裁量的な時間」で柔軟な時間配分を可能に

・学年区分や単位制度をもっと柔軟に

不登校児童生徒や特定分野に優れた子に合わせた特別の教育課程を用意

また、子ども同士の対話や合意形成を通じて、安易な多数決ではなく納得解を探す経験を積ませることも強調されています。

 

例えば、以下のような授業編成が考えられます。

学校の判断で一部の教科の標準授業時数を減らし、週に2時間「裁量的な時間」を設ける。

その時間で、ある子は苦手な算数の基礎をじっくり復習し、別の子はプログラミングや地域の課題探究など、自分の興味関心を深める活動に取り組む。

このとき、教師がどう子どもたちをフォローしていくかは難しい課題となりそうです。

私、個人としては教師側の生成AIの活用が欠かせなくなるのではないかと考えています。

 

3. 実現可能性 ― 先生と子どもに「余白」を

こうした学びの実装は現場が疲弊していては持続できません。そこで第三の柱が「実現可能性」です。

 

・授業時数の適正化・平準化

・教科書の精選(分量の見直し)

・裁量的な時間の確保

 

こうした仕組みで先生と子どもに「余白」=ゆとりを生むことが目指されています。余白があるからこそ、探究や振り返りの学びが深まり、教材研究や授業改善に取り組めます。

 

自らの人生の舵取りする力と民主的な社会の創り手育成

今回の改訂の背景には、以下のような社会全体の構造変化があります。

 

技術の発展: 生成AIの登場により、単に正解を知っていることよりも、独自の視点や発想を持つことの価値が高まっています 。

予測困難な未来労働市場が流動化し、人生の在り方が多様化する中で、変化にしなやかに対応し「自らの人生を舵取りできる力」が不可欠になっています 。

社会の課題:人口の多様化やSNSなどの影響による社会分断のリスクに対応するため、主体的に社会に参加する「民主的な社会の創り手」の育成が急務となっています 。

学びの動機少子化などで従来の入試などが動機付けとして機能しにくくなる中、子どもたちの学びへの動機付けをアップデートする必要もあります 。

 

これまで学校教育では、知識を正確に覚え、テストで「正解」を答える力も重視されてきました。

しかし、生成AIが登場したことで、その価値は大きく変わろうとしています。AIに聞けば、多くの「正解」は一瞬で手に入るからです。

そうなると、人間に求められるのは「正解を知っていること」だけでなく、「AIにはできない、独自の視点や発想を持つこと」も必要となります。

これからの社会では、こうした「人間ならではの力」がこれまで以上に価値を持つようになります。


AI時代の人間の役割については、一度以下のブログで考察しているので参考にしてください。

taitai55kun.hatenablog.com

 

「正解主義」と「同調圧力」からの脱却

このような社会の変化に対し、現在の学校教育には2つの大きな課題があると指摘しています。

一つの「正解」を効率よく覚えることに偏りがちな教育では、子どもたちが自ら問いを立て、試行錯誤しながら自分なりの答えを見つける力が育ちにくいのが現状です。

また、「みんなと同じ」であることが重視され、周りと違う意見を言うことにためらいを感じる空気(同調圧力)も根強くあります。

これでは、AI時代に価値を持つ「独自の視点」が育ちにくくなります。

これらの課題を乗り越え、予測困難な時代をしなやかに生き抜くために、「自らの人生を舵取りできる力」を育てることが、今まさに求められているのです。

 

育むべき力:2つのアプローチ

では、「自らの人生を舵取りできる力」を育むために、具体的にどうすればよいのでしょうか。以下の2つの取り組みを両輪で進める必要があるとされています。

 

1. 一人ひとりの「好き」と「得意」を伸ばす

これは、「やらされ感」から「知りたい!」という内発的な動機付けに変えるアプローチです。

例えば、歴史が苦手だけれどゲームが大好きな子がいるとします。

その子の「好き」を起点に、「好きなゲームの時代背景を調べてみよう」「ゲームのキャラクターデザインの元になった文化を深掘りしよう」といった探究に繋げることで、学びは一気に「自分ごと」になります。

これは極端な例ですが、一つの「好き」や「得意」を深める経験は、自信に繋がり、他の教科への学習意欲をも引き出す可能性があります。

 

2. 当事者意識を持って対話し、合意形成を図る

これは、民主的な社会を創る担い手としての力を育むアプローチです。

自分の意見を持つことはもちろん重要ですが、それと同じくらい、自分とは異なる意見に耳を傾け、議論し、より良い答え(納得解)を粘り強く探るプロセスが大切とされています。

 

例えば、「学級ルールをどう変えるか」というテーマで話し合う特別活動が考えられます。

多数決で安易に決めるのではなく、「なぜ今のルールがあるのか?」「少数意見の背景にはどんな思いがあるのか?」を全員で考え、対話を通じてお互いが納得できる新しいルールを創り上げていく。

こうした経験は、多様な人々と共生していく上で不可欠な力を育みます。

 

これら2つの力は、「探究的な学び」や「情報活用能力の向上」そして「特別活動」といった具体的な教育活動の中で、関連付けながら育まれていくことが期待されています。

 

 

まとめ

次期学習指導要領の基本的な考え方は、「深い学び」「多様性」「余白」です。
現場にとっては、授業づくり・学年経営・校務のすべてに関わる大きな方向性になります。

今回の記事がみなさまの実践を振り返る機会になれば幸いです。