第二章 「質の高い、深い学びを実現し、分かりやすく使いやすい学習指導要領の在り方」
第二章では、質の高い深い学びを実現するため、学習指導要領を教師にとって分かりやすく、使いやすいものに刷新するための具体的な改善案が示されています。
そのための柱は、「構造化」「表形式化」「デジタル化」の一体的な推進と、重要な用語・概念の整理です。
(1) 中核的な概念等を活用した一層の構造化・表形式化・デジタル化
現在の学習指導要領は、個別の知識がどう繋がり、教科の主要な概念の深い理解にどう結びつくのか(タテの関係)、また「知識」と「思考力」がどう連携するのか(ヨコの関係)がイメージしにくいという課題がありました。
そこで、以下のような改善が提案されています。
改善の3つの柱は「構造化」「表形式化」「デジタル化」です。
構造化では、中核的な概念を軸に整理し、学年ごとの深まり(タテ)や力のつながり(ヨコ)を明確化し、必要に応じて内容も絞ります。
表形式化では、長文を表や箇条書きに変えて直感的に理解できるようになります。
デジタル化では、検索や教材リンク、AIによる授業支援ができる「デジタル学習指導要領」を整備し、先生の日常的なツールにしていきます。
(2) 「学びに向かう力、人間性等」の再整理
「学びに向かう力、人間性等」は非常に重要な資質・能力ですが、多岐にわたる要素が含まれており、全体像が分かりにくいという課題がありました。
そこで、この概念を維持しつつ、以下の4つの要素で構造的に整理し直す方向性が示されました。
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初発の思考や行動を起こす力・好奇心:まずは考えてみよう、やってみようとする力 
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学びの主体的な調整:自分の学びを客観的に捉え、自己調整する力(メタ認知) 
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他者との対話や協働:他者との関わりを通じて学びを深める力 
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学びを方向付ける人間性:学びをより良い人生や社会に繋げようとする姿勢 
これら4つの要素が相互に行き来する(往還する)ことで、「学びに向かう力、人間性等」が育まれるというイメージが提示されています。
(3) 「見方・考え方」の再整理
「見方・考え方」は、「学びの深まり」と「教科等を学ぶ本質的な意義」という2つの側面で説明されてきましたが、この二重性が分かりにくさの一因となっていました。
そこで、役割を以下のように整理することが提案されています。
「見方・考え方」の側面①「学びの深まり」は「中核的な概念等」による資質・能力の構造化によって一層具体的に示し、「見方・考え方」自体は、側面②「教科等を学ぶ本質的な意義」に焦点化してより端的に示していくこととする方向で検討すべきとされています。
(4) デジタル学習基盤を前提とした学びの在り方
GIGAスクール構想により1人1台端末が整備されましたが、学習指導要領の記述が現状に追いついていませんでした。そこで、次期学習指導要領ではデジタル学習基盤の活用を前提とし、その意義を総則に明記する方針です。
教師の指導用としてだけでなく、子どもが主体的に学習を調整するため、学習者の学習ツールとして使用することが求められます。
「個別最適な学びと協働的な学び」は、「個に応じた指導」を発展的に置き換える形で整理し、「主体的・対話的で深い学び」の実現手段として位置づけられます。
第三章 多様な子供たちを包摂する柔軟な教育課程
1. 背景
学校には、不登校の子、特別な才能を持つ子、日本語に不自由な子など、多様な子どもたちが在籍しています。しかし、現行の学習指導要領は標準時数や学年区分が硬直的で、一律的な教育課程では対応が難しいのです。そこで、「柔軟に授業を調整できる仕組み」が求められています。
2. 方向性のポイント
(1) 「調整授業時数制度」の創設
学校が一部の教科の授業時数を調整し、別の活動や時間に振り替えることを可能になります。学校判断で常に利用できるようになります。
• 例:算数を少し減らして → 「裁量的な時間」に充当する(基礎補習や探究活動など)。
(2) 裁量的な時間の活用
生まれた余裕を「裁量的な時間」として使えます。
活用例
◦ 学習に遅れがちな子への個別支援 ◦ 特別な才能を伸ばす活動
◦ 地域と連携した探究活動 ◦ 教員の研究や研修時間
(3) 学年区分・単位の柔軟化
学年に縛られず、子どもの習熟度に合わせた学びを実施していきます。
高校では、必履修や単位数をより柔軟に組み合わせられる仕組みを構築していきます。
(4) 個別の教育課程
不登校の児童生徒に対して、校内外の教育支援センターと連携し、実態に応じた課程を実施します。そして、特異な才能を持つ児童生徒に対して、高度な内容を大学や研究機関と連携して履修可能になります。また、日本語指導が必要な児童生徒に対して、母語を生かしつつ、日本語と教科の学びを統合します。
所感
大きな変更点は学習指導要領がデジタル化され、使いやすいものにアップデートされることです。現行の紙かPDFの状態だと気軽さがありませんが、デジタル化されることにより、指導要領に立ち返って考える場面が増えることが予想されます。
また、第三章で述べられている調整授業時数制度にも期待したいです。
これにより、探究の時間を作り出すことができ、より自由度の高い教育が可能となりますね。
日本の学校教育の良さはその統一感にあるとは思いますが、地域ごとに児童生徒や取り巻く環境の違いはあるため、一部自由度を持たせる取り組みは有効ではないかと考えます。
次回は第四章以降を見ていきたいと思います。